このたび、児童相談所と民間養子縁組許可団体に、セクシュアル・マイノリティが里親・養親になることについてアンケート調査を実施した結果がまとまりましたので、報告します。
概要(詳しくはPDFファイルをご覧ください)
本研究では、①SOGIEに関わらず、望めば婚姻でき、制度が利用、社会保障を受けることができること。②SOGIEや婚姻状態に関わらず、家族が形成でき、社会的承認を得ること。③遺伝的つながりの有無にかかわらず、子育てに関われること。④社会的養育において、それぞれの子どものニーズに合う養育者がいること。それらをかなえる仕組みを検討したいと考えています。
セクシュアル・マイノリティの方自身が、パートナーと暮らしたり、結婚、婚姻するなどのパートナーシップ、親になることを含む家族形成をどのように考えているかについては、これまで日本でもいくつかの調査がありました。本研究でも、いわゆる当事者調査を実施しており、まもなく結果を公開する計画です。
いわゆる自然生殖以外に親になる方法としては、連れ子、精子提供・卵子提供・代理懐胎など第三者が関わる生殖技術、里親や養子縁組、その他の共同養育や拡大家族などの方法がありますが、本調査では、里親や養子縁組に限定して調査しています。ちなみに、里親は都道府県政令市が認定し、児童相談所が措置をします。法制度上、婚姻状態による制限や年齢の上限はありません。養子縁組は児童相談所や民間機関が委託することができるもので、特別養子縁組は民法上、法律婚夫婦に限られ、普通養子縁組は婚姻状態による制限はありませんが、親権者やその親族と子どもの親族関係は終了しません。
今回の調査では、セクシュアル・マイノリティが里親や養親になることについて、委託する側の現状、意識、障壁があるならばその障壁を何だと感じているかを尋ねるために、児童相談所、養子縁組許可機関にアンケート調査を実施しました。委託側の調査は、日本で初めてになります。
結果は、詳しくは集計をご参照いただければと思いますが、里親・養子縁組に関する当事者からの問い合わせ・相談を受けたことがあると答えた児童相談所・民間機関は相当ある一方、実際に認定・委託したことがある割合は小さいことがわかりました。しかし、自由記述では、当該自治体がパートナーシップ宣誓制度を開始したためそれに準拠するという回答など、自治体の方向性に沿う意向が示されていることも少なくないため、今後、認定や委託が進行する可能性を示しています。一方、親権者の同意が取れないのではないか、子どもが里子であること以外にも周囲に説明しづらくなるなどの懸念もあがっており、児童相談所の意向だけでは進められない背景要因があることも示されました。
カップルの一人が性別変更したトランスジェンダーで法律婚している場合は、里親認定、里親委託、養子縁組委託の割合が同性カップルや法律婚していないトランスジェンダーのカップルよりも経験率が高く、児童相談所が法律婚に重点を置いていることが伺えます。また、同性カップルよりも法律婚していないトランスジェンダーのカップルと比較しても差異はほとんどありませんが、異性カップルを重視しているのか、法律婚していないトランスジェンダーカップルを認識していないのか、当人から開示がないのかはわかりません。
一方、民間養子縁組機関は、親族間の養子縁組など特定の状況で普通養子縁組をおこなった経験がまれにあるものの、基本的にはセクシュアル・マイノリティの人に対する特別養子縁組は、法制度上できないため、関与外と考えているようでした。同性婚が認められるか、単身者の特別養子縁組が法律で認められない限り、縁組はできないと答えており、法制度上可能だが進められていない里親委託とは対照的な回答でした。里親認定・委託が運用上可能であるけれども進められていない点をどのように改善できるかは、末尾の「提言」にまとめた通りです。委託機関のみならず、関係者や社会が多様性を認識することが必要で、それは保護された子ども、里親子や養親子などの非血縁的親子、セクシュアル・マイノリティの子ども、その他の多様な家族や暮らし方を認識することにつながっていくと考えています。
謝辞:調査にご協力いただいた全国の児童相談所、民間機関に感謝申し上げます。
本稿は、「生殖補助医療・社会的養護によるLGBTの家族形成支援システムの構築」(日本学術振興会、課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業(実社会対応プログラム)、研究テーマ公募型、研究代表:二宮周平(立命館大学)の研究成果の一部を使用している 。
20211113セクシュアルマイノリティなどに関する児相・養子縁組機関調査結果 .pdf